通告 - 2020年2月26日
新型コロナウイルスが中国で猛威を震わせていた頃、外資系企業である我が社は早めの自宅待機状態を作り始めていた。特に顔をあわせる会議が必要ない場合、自宅での勤務を許可され、僕も家で仕事をしていた。
2月25日 53才の誕生日を5日後ひかえて子供達が「プレゼントは何が欲しい」 そんな会話が交わされるいつもの朝だった。
朝 一通のメールが上司から入ってきた。
「今週 会社で打ち合わせをしたいので出社できますか?」
その日は朝から電話会議が入っていたので、
「明日以降でしたらいつでも」と返信した。
すぐに「では明日の11時に会社で会いましょう」
何の件なのかわからなかったが心のどこかで胸騒ぎがした。
2020年2月26日
いつものように出勤をして事務仕事をすませて、上司を待っていた。
11時少し前、「それでは始めましょう」と上司は声をかけてきて
デスクの近くの会議室に入った。
「会社の合理化により、組織変更を大幅に行います。よってあなたは社内の他の部署のポジションを探すか、5月末を持って退職をしていただきます。支援プログラムは提供しますのでそれに従ってください。」
まるで官僚がつくったペーパーをよむこの国の国会議員のように、感情のない表情で上司は僕に告げた。
退職勧奨・・・
その四文字が頭に浮かぶと同時に怒りがこみ上げた。
ここまで一度も合理化や組織再編の話は聞かされていなかった。それどころか、この会社では社長補佐として仕事をしてきたので、前社長の退任後、この人が上司になったのも2ヶ月ほど前だった。
自分の仕事の一つに職場環境の改善ということがある。会社はいつも「働きがいのある会社、職場をつくる」と社員に語り、それを推進してきた。
そんな自分が何も予兆なくリストラだ。
僕は上司に
「こんな一方的な解雇通告は認められないはずだ。弁護士と相談してそれなりの対処をする」
とつげて部屋をでた。
精一杯の強がり、その時の僕にはこんなリアクションしかできなかった。